【再読】筒井康隆 『アルファルファ作戦』

筒井康隆の初期短編集を再読しようという、この企画も今回で3回目を迎える。

では粛々と進めよう。

 

アルファルファ作戦」

表題作。老人だけになった地球に異星人が攻めてくる。老人達が戯画的に描かれてはいるが、ブラックユーモアは控えめで、どこかほのぼのとした雰囲気がある。

 

「近所迷惑」

我々のいる宇宙自体がおかしくなるという点では「しゃっくり」と共通しているが、こちらは時間だけでは無く、空間的にもおかしくなる。

 

「慶安大変記」

大学生の集団と予備校生の集団が些細なきっかけで抗争を始める。受験戦争の「戦争」は比喩だが、こちらは本当の戦争になってしまう。

 

「人口九千九百億」

タイトル通り、人口爆発した未来の地球の話である。

 

「公共伏魔殿」

NHKの受信料については今でも色々と騒ぎが持ち上がっている。NHKの映らないテレビでも受信料を払わないといけないという最高裁判決がついこの間下った。世の中間違っとるよ。

 

「旅」

まるでハーラン・エリスンのニューウェイヴSFのような趣がある実験的な作品。

 

「一万二千粒の錠剤」

一錠飲めば一年寿命が延びる薬を巡って殺し合いが起きるという、いかにも筒井康隆的なドタバタ作品。

 

「懲戒の部屋」

痴漢冤罪で腎虚刑に処せられるという、恐ろしい小説。

 

「色眼鏡の狂詩曲」

外国人から見た歪んだ日本人像。これを読むと、当時から憲法九条改正論議があったことがわかる。

 

五十年以上前の作品集でありながら、表題作のアルファルファ作戦」は老人問題、「慶安大変記」は受験戦争、「人口九千九百億」は人口問題、「公共伏魔殿」NHKの受信料問題、「懲戒の部屋」は痴漢冤罪問題と、現代でも未解決の諸問題がテーマとなっているのは興味深い。

これで中公文庫から出ている初期短編集3冊の再読は終わり。けっこう内容を忘れていたり、間違って記憶していたりした。これらの本を初めて読んだのは確か高校生の頃である。当時はよく分からなかったであろうところが、この年になったからこそ理解出来たりもし、有意義な読書であった。

さて、ここで一応の一区切りはついたとも言えるが、次に再読するとすれば、集英社から出ている2冊の短編集になるだろう。